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岡山地方裁判所 昭和56年(行ウ)12号 判決

岡山県笠岡市五番町三番地の一二

原告

岡本金太

同市五番町四八号

被告

笠岡税務署長

松本茂生

右指定代理人

笹村将文

森盈利

津田忠昭

北脇重男

井上輝司

入江要次

岡山昭陽

滝川譲

井藤治幸

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告が昭和五四年二月二七日付で原告の昭和五〇年分、昭和五一年分及び昭和五二年分の所得税についてした各更正及び各過少申告加算税の賦課決定(昭和五〇年分については審査裁決により取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は建具販売業を営む者であるが、昭和五〇年ないし昭和五二年分の所得税につき、それぞれ法定申告期限までに、別表一ないし三の各「事業所得金額」の欄及び「納付すべき税額」の欄記載のとおり確定申告をした。

2  被告は、原告の各係争年分の所得税につき、昭和五四年二月二七日付で別表一ないし三記載のとおり、それぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課処分をした。

3  原告は、右各更正処分及び過少申告加算税の賦課処分につき昭和五四年三月二二日被告に対し異議を申し立て、三か月を経過しても異議に対する決定がされなかったので、さらに同年七月一八日国税不服審判長に対し審査請求をした。

4  同所長は、昭和五六年二月二八日付で別表一ないし三記載のとおり審査裁決をし、原告は昭和五六年三月一一日右裁決書謄本の送達を受けた。

5  しかしながら、原告の各係争年分の総所得金額はいずれも原告の確定申告のとおりであって、被告のした各係争年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課処分(昭和五〇年分については審査裁決により取り消された部分を除く、以下同じ。なお、各係争年分をまとめて「本件更正処分」又は「本件賦課決定」という。)はいずれも違法であるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の事実は認めるが、同5の主張は争う。なお、処分の経緯の詳細は別表一ないし三記載のとおりとする。

三、被告の主張

1  (推計課税の必要性)

原告は、被告の税務調査において、事業所得金額の計算の基礎となる帳簿書類につき、昭和五〇年分及び昭和五一年分を保存していない旨陳述し、昭和五二年分については売上げの仕切書のみを提示し、他の資料は被告の提示要求にもかかわらず提示しなかった。また、右仕切書中には売上げを二重に記入しているものがあり、売上げの一部については仕切書が作成されていなかった。このため、被告は原告の事業所得金額を実額で計算することができなかったので、推計の方法により原告の各係争年分の事業所得金額を算定した。

2  (事業所得金額算出の根拠)

(一) 売上金額

昭和五〇年分 三一一〇万七六八七円

昭和五一年分 二八五五万二七四〇円

昭和五二年分 三七〇二万一四六六円

右各売上金額は、後記売上原価の額に、被告管内に所在し、業種、業態及び事業規模が原告と類似する青色申告者三名(以下「類似同業者」という。)の木製建具・襖・金具類(以下「木製建具等」という。)及びサッシのそれぞれ平均的な売上換算率(売上原価の額に対する売上金額の割合)を乗じて推計したもので、類似同業者の売上換算率は別表四、原告の売上金額の算出方法は別表五の各記載のとおりである。

なお、売上原価の額のうちサッシの分は、サッシの仕入金額の全部にガラスの仕入金額の八〇パーセントの額を加算したものであり、木製建具等の分はガラスの仕入金額の二〇パーセントに木材・襖・金具類の仕入金額の全部を加算した額である。

(二) 仕入金額(その明細は別表六のとおりである。)

昭和五〇年分 二〇三五万三三一八円

昭和五一年分 一七六四万五五二八円

昭和五二年分 二二〇六万六二七三円

(三) 売上原価の額

前記(二)と同じ。すなわち、売上原価の額は期首棚卸額に期中の仕入金額を加算し期末棚卸額を控除して求めるべきものであるが、原告は各係争年分の実地棚卸を実施していないので、期首・期末の棚卸額に変動はないものとして認定したものである。

(四) 一般経費の額(売上原価の額及び特別経費の額を除く一般的な必要経費)

昭和五〇年分 四〇七万五一〇七円

昭和五一年分 三六二万六一九八円

昭和五二年分 五七三万八三二八円

右の額は、類似同業者の平均的な一般経費率を原告の各係争年分の売上金額に乗じて算出したもので、右経費率の計算根拠は別表七のとおりである。

(五) 特別経費の額(雇入費)

昭和五〇年分 五〇二万二〇〇〇円

昭和五一年分 五四五万六〇〇〇円

昭和五二年分 四七九万三五〇〇円

(六) 雑収入金額

昭和五〇年分 九四万五五一九円

昭和五一年分 五一万八五八〇円

昭和五二年分 一四六万三五二三円

(七) 事業所得金額((一)+(六)-{(三)+(四)+(五)})

昭和五〇年分 二六〇万二七八一円

昭和五一年分 二三四万三五九四円

昭和五二年分 五八八万六八八八円

3  (結論)

以上のとおりであって、原告の各係争年分の総所得金額は、他の所得がないから右事業所得の金額と同額となり、各係争年分に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課処分は右各所得金額の範囲内でされたものであって、適法である。

四、被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は認める。

2  同2のうち、(一)、(七)の事実は争い、(二)ないし(六)の事実は認める。

3  同3は争う。

五、原告の反論

1  (原告の売上換算率)

被告の主張する同業者率による推計方法は誤差が大きく不正確であるから、原告の資料より計算された売上換算率(以下便宜上「本人率」という。)により売上金額が算出されるべきである。

この場合の売上換算率は次のとおりである。

サッシ 一三〇パーセント

木製建具 二〇〇パーセント

襖 一二五パーセント

金具類 一三〇パーセント

したがって、別表八記載の各売上原価の額に右の売上換算率を乗じた金額を売上金額と認定すべきである。

2  (被告の推計方法の不合理性)

(一) 原告は、主としてサッシ、木製建具等の製造販売をしているが、サッシについてはメーカーにより小売店への販売方法小売店の利益率が著しく異なるので、どのメーカーの製品を扱っているかを顧慮することなく、単にサッシを扱っているという点だけで同業者を抽出しても、原告の類似同業者として比較対照することは不合理である。

(二) 被告の抽出した類似同業者の売上換算率はサッシをとってみても、最高は一四八・〇八パーセントから最低は一二六・八七パーセントまでかなりのばらつきがあり、かような平均的でない業者の平均売上換算率なるものを算出しても合理的な推計の基礎とはなり得ない。

(三) 被告は、木製建具等を一括したうえサッシと大別してそれぞれの売上換算率を算出しているが、原告の場合、木製建具等のうち襖は外注品であり他の製品とは利益が全く異なるので、これを区別しないで売上換算率を算出するのは不合理である。

また、金具類の仕入金額についてすべて木製建具等の売上換算率を適用して売上金額を推計しているが、金具類は木製家具とアルミサッシの双方に使用しているほか、家庭用や自己家屋の新築用に使用したものも含まれているので、被告の推計方法に合理性はない。

六、被告の再反論

1  (本人率の不採用)

(一) 本人率の計算が可能な場合とは、合理的と認められる相当期間内における売上金額とその原価の額とがそれぞれ実額で計算できる場合か、又は当該年分の総売上数量のうち合理的と認められる相当数量の製品・商品(以下、単に「製品」という。)について、売上金額とその原価の額が実額で比較対照することが可能な場合に限られる。

(二) しかしながら、本件についてみると、原告は帳簿書類を作成していないから相当期間内における売上金額とその原価の額を実額で計算することはできない。そうすると残る手段は、相当数量の製品について原告が保管している昭和五二年分の売上げに関する仕切書から売上金額を計算し、その原価の額については仕入に関する書類等からこれを計算して両者を比較対照するしかない。ところが、売上金額が仕切書の金額と同一であるか判然としないうえ、売上原価の額については原告が計算方法を明らかにすることなく一方的に主張しているだけであって、原告の記憶と想像が正確であることを担保するものは何もなく、信用できない。以下、各別に本人率が適用できない理由を述べる。

2  (サッシの本人率について)

(一) サッシは、〈1〉水切により構成されているが、売上原価は右〈1〉ないし〈4〉の合計額であるから、これらの原価が個別に算定されなければ原価計算は不可能である。

(二) ところで、原告の仕切書には「二尺ドア」とか「〇八×〇六」程度の記載しかなく、使用したガラスの種類・量も仕切書だけでは判別できず、また、サッシ本体もその色や規格によってそれぞれ仕入金額が異なり、これらの事項を各取引ごとに原告が正確に記憶しかつ正当な方法で原価を算出することはそもそも不可能である。

(三) また、原告が本人率作成の資料として提出した一覧表には、その期間中にサッシ本体の卸売価格の値上げがあったにもかかわらず、値上げ前に仕入れた物を販売した場合にも値上げ後の仕入金額を基礎にして原価計算をしていることが明らかであり、右の一事をもって原価計算を訂正するだけでも売上換算率に大幅な違いが生ずるので、原告の主張する本人率は信用に値しない。

3  (襖の本人率について)

襖についても、その原価の明細は一切明らかでなく、本件の審査請求時には原告は正確な原価計算はできないと申し立てていたことから、その正確性には大いに疑問がある。

4  (製造建具について)

製造建具については、その原価計算の明細を明らかにせず、材料の木材は価格変動が激しく、個々の製品ごとに使用する木材の種類・量が異なるから、個別原価を算出することは不可能である。

5  (金具類の本人率について)

サッシ用金具類は、サッシの本体の仕入先から仕入れており、また製造用金具類は通常木製建具に取り付けて販売しており独自の販売製品とはならないから、これを独立させて売上換算率を計算すべき必要性もなく、さらに、その計算根拠も明らかでなく信用できない。

第三、証拠

本件記録中の証拠に関する目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一、請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二、被告の主張1(推計課税の必要性)の事実も、当事者間に争いがない。

三、そこで、原告の所得金額の推計につき判断する。

1  被告は、原告の各係争年分の所得の推計方法につき、右各係争年分の仕入金額が判明していることから、その各金額を基礎にして同業者率により所得金額を算出すべきである、と主張し、これに対し、原告は、原告の資料を用いて算出された売上換算率により売上金額を算出して所得金額を推計すべきである、と主張している。

そこで、右各主張を検討するに、所得税は申告納税が原則であり、その理想は直接資料を用いて所得の実額を把握して課税する、いわゆる実額課税であるから、推計課税の可能な場合でもその推計方法はできるだけ納税者の所得の実額に近接し得る精度の高い方法を選択すべきであることは多言を要しないところである。これを本件についてみるに、被告の主張する同業者率とは、対象者の同一管内における類似同業者を抽出してその平均比率を求める方法であるが、対象者と業務形態、規模、立地条件等が全く同一という業者はそもそも存在しないうえ、類似同業者を対象者とできるだけ業務形態等において類似した業者に絞ろうとすればするほど選定された類似同業者数は少なくなり、その結果算出した平均値は個別性による誤差が生ずる確率が高まり、逆に、同業者の個別性を平均化するために選定件数を増やせば増やすほど類似同業者と対象者との類似性が希薄となり、いずれにせよ同業者率による推計にはその精度において大きな限界があることは否めない。現に、本件において被告の選定した類似同業者は三業者のみで、類似同業者数が少ないからという理由だけで得られた数値に普遍性や合理性がないとはいえないとしても、原告の所得の実額とはある程度の誤差が生ずる可能性は必ずしも少なくない。これに対し、対象者である原告の資料により合理的と認められる相当数量の製品について売上金額とその原価との実額で比較対照し、これにより得られた平均比率を基にして仕入金額から売上金額を算出する本人率による推計が可能であれば、少なくとも売上金額の推計については、各対照事例が意図的に偏った抽出がされていない限り、かなりの精度で対象者の実額に近い額を算出することができるはずであり、そうだとすれば、右のような本人率による推計方法の方が同業者率によるよりも合理的であり、その算出された数値は信用性が高いものというべきである。

2  そこで、次に、本件につき右のような本人率による推計が可能であるか否かを検討するに、原告は自己の製品をサッシ、木製建具、襖及び金具類の四種に分類してそれぞれ本人率による売上換算率を主張しているので、以下各別に検討することとする。

(一)  サッシ

原告は、サッシの売上換算率が一三〇パーセントである、と主張して、成立に争いのない甲第二号証(昭和五二年分サッシ利益率表)を提出しており、同号証には相当数量の製品の販売につき各製品ごとに売上金額とその原価が記載されているところ、原告本人尋問の結果によると、各品の売上金額は原告が保管している昭和五二年分の仕切書に基づいて記載し、その原価は原告の記憶と勘により記載したものであることが認められ、一方、成立に争いのない乙第一号証によると原告が売上金額の基礎とした仕切書には二重に記入されているものがあることや売上げの一部につき作成されていないものがあることが推認されるものの、証人岡村三千男の証言及び原告本人尋問の結果によると、仕切書に記載されていた売上金額自体はかなり正確であると認められるので、前掲甲第二号証の各記載のうち売上金額に関しては本人率を算出するに足りるだけの十分な資料価値を有しているものと認められる。

しかしながら、同号証に記載されている各売上原価について検討するに、サッシ製品は、サッシ本体、ガラス、ビート、網及び水切等により構成されている製品であるから、その売上原価を算出するに当たっては、右の各部品ごとの種類、数量、仕入金額が明らかにされなければならないが、原告本人尋問の結果によると、各製品ごとのガラス、ビート等の種類、数量、仕入金額にについては仕切書の記載から判別することは不可能であることが認められ、もっぱら原告本人の記憶と勘に基づいて算出されたものと推認するほかないが、その算出方法については原告本人尋問の結果によってもなんら首肯するに足りる根拠は示されていない。

また、そもそも前掲甲第二号証に記載されて数百にのぼる売上製品について、記憶と勘のみによって正確な原価計算が可能とも思われない。

さらに、サッシ本体についても前掲甲第二号証には「一六×一八」程度の記載しかされておらず、前示のとおり右のような記載は仕切書を引き写したもので仕切書にも同様の記載しかされていないものと認められるところ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一二、第一三号証の各一、二、原本の存在及び成立に争いのない乙第一四号証、成立に争いのない乙第一五号証、証人岡村三千男の証言及び原告本人尋問の結果によると、例えば右に挙げた「一六×一八」の窓用サッシでも関東間、四国間、関西間の区別があり、色もブロンズとシルバーがあり、それぞれ種類、色により仕入金額が異なることが認められるので、これまた仕切書のみからサッシ本体の仕入金額を特定することはできず、やはり原告本人の記憶に頼らざるを得ない部分が残り、かつその記憶が正確であることを担保するものはなにもない。

のみならず、証人岡村三千男の証言及び原告本人尋問の結果によると、サッシ本体について仕入金額の値上げがあったのに、値上げ前に仕入れたサッシ製品の売上原価もサッシ本体についてすべて値上げ後の仕入金額を基準にして計算していることが明らかであり、以上のような点を総合すると、前掲甲第二号証のサッシ利益率表の売上原価の記載は十分な根拠を有するものではなく、かつ正確性に欠けているものといわざるを得ない。

そして、他に各製品の売上原価を算出することが可能な証拠も存しないので、サッシ製品については本人率によって合理的な売上換算率を算定することは不可能であり、原告主張の売上換算率は採用し難い。

(二)  木製建具

原告は、木製建具の売上換算率の算定資料として成立に争いのない甲第三号証(昭和五二年分建具フスマ利益率表)を提出しており、同号証の各製品の売上金額の記載は仕切書から引き写したものと推認されるから、これが仮に措信できるとしても、その原価については製品名の記載のみでは使用した木材の種類、材質、数量を推定することは困難であり、加えて原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、主材料である木材の仕入金額は相場の変動が著しいため一定していなかったと認められるので、かような点を考えただけでも、個々の製品の原価計算は、原材料の仕入時ごとにその価格を記帳し、個々の製品を製作するたびにその原材料の数量・価格を計算するという方法でもとられていない限り極めて困難であると思料されるが、かような原価計算が行われていたことを窺わせる証拠はない。この点につき、原告は、その本人尋問において、右の原価計算の根拠に関して、木製建具については木材の仕入時点に材質を仕切書に記載していたのでこれに基づき算出した、と供述しているもののたやすく措信し難く、他に原価計算につき首肯できる根拠となるような証拠は提出されていないので、結局、木製建具についても本人率を適用することができず、原告の主張する売上換算率は採用し難い。

(三)  襖

前掲甲第三号証の襖に関する記載も、前同様に、売上金額については仮に措信できるとしても、その原価については算出根拠につき立証がない。

(四)  金具類

金具類は、通常サッシ製品又は木製建具等の原材料ないしは部品であって、独立に販売する製品とは考えられず、金具のみを独立させて売上換算率を計算する必要性は存しない。また、原告はその主張する売上換算率の算定根拠となる証拠も提出していない。

したがって、原告主張の売上換算率は採用し難い。

3  以上のとおりであって、原告の各係争年分の所得を推計するに当たって、本人率による売上換算率を算出することは不可能であり、現実的ではないので、右売上換算率については同業者率を用いるのも、本件の場合やむを得ない事由があるから、これをもって合理的な算出方法というべきである。

4  そこで、被告主張の推計方法につき判断する。

(一)  成立に争いのない乙第一号証、いずれも証人岡村三千男の証言により真正に成立したと認められる乙第二、第三号証の各一ないし三、第四号証の一ないし五、第五、第六号証の各一ないし三、第七号証の一ないし四、第八号証の一ないし三、第九号証及び証人岡村三千男の証言によると、国税審査官である同証人は、まず原告の類似同業者として、地域的な類似性を担保するため原告の営業場所の存する笠岡税務署管内に営業所を設け、年の途中で改廃業していない青色申告者で、通年営業をしていること、サッシと木製建具を扱い請負はしていないこと、帳簿からサッシとそれ以外の区分ができること及び規模は売上原価の点で原告と類似していること、以上の各条件を満たす業者を無作為に抽出調査して別表四のA、B、Cの三業者を選定し、次いでその各青色申告決算書を基礎にして、原告のサッシとそれ以外では利益が著しく異なる、との主張に合わせるため、同決算書の金額をサッシとそれ以外の部分に大別してそれぞれの売上金額と売上原価の額を計上したほか、原告の条件に合わせるための調整をしたうえ各業者の各係争年分のサッシと木製建具等の各売上金額及び売上原価の額を算出したこと並びにその結果が別表四記載のとおりであることが認められ、また、その各係争年分の平均売上換算率が同表記載のとおりであることは計数上明らかである。

右認定事実によれば、右平均売上換算率の算出の基礎となった類似同業者は、原告と同じ笠岡税務署管内に営業所を有し、かつ建具の製造販売を業とする者で、サッシと木製建具の双方を扱っている個人事業者であるから、類似同業者の抽出基準に合理性があり、その抽出に恣意の介在したことを窺わせる証拠もなく、別表四の金額も青色申告決算書を基礎にして必要な調整をして算出しているのであって、その各売上換算率については極端に低率又は高率を示す同業者は選出されていないから、このようにして算出された平均売上換算率は一応その正確性と普遍性とが担保されているということができる。

もっとも、当事者間に争いのない原告の各係争年分の売上原価の額と類似同業者のそれを比較すると、サッシについては各係争年分ともかなり類似しているものの、木製建具等の売上原価の額については原告のそれは五八一万円から八五六万円程度なのに対し、類似同業者のそれは一二二五万円から二三〇三万円程度とかなりの開きがあることが認められるが、抽出基準としてサッシと木製建具等の双方を扱っている業者を選定する必要があった以上、これにさらにその双方について原告と売上原価の額が類似するという条件を付加して業者を選定することは現実に極めて困難又は不可能なことであり、木製建具等については売上原価の前記の程度の差で売上換算率が著しく異なることを推認させるような特段の要因も窺われないので、これを原告との類似性を否定する事由とまではいえない。

また、類似同業者として選定された件数も三件であって必ずしも多くなく、その抽出数が個々の業者の個別的な特殊事情を捨象し得る程度のものか疑問もなくはないが、前記のとおり可能な限り原告と類似の業者を選定しているうえ、各業者の売上換算率に余りばらつきがないことなどをも勘案すると、以上のような木製建具等の売上原価の額についての原告と類似同業者の開きや、抽出件数が僅少であることによる誤差の可能性を総合考慮しても、右のようにして算出された平均売上換算率は、推計課税の方法として許容される限度内の普遍性と合理性を有していると認められる。

(二)  原告は、サッシ製品はメーカーにより利益率が著しく異なるから、扱っている製品のメーカーを顧慮せずに類似同業者を選任することは合理性を欠く、と主張するが、右のような特段の事情についての具体的な立証がないので、右主張は採用し難い。

また、原告は、類似同業者のサッシの売上換算率につき最高は一四八・〇八パーセントから最低は一二六・八七パーセントまでかなりのばらつきがあり、その平均値には合理性がない、と主張するが、右は昭和五二年分のサッシの売上換算率につき主張しているものと思われるところ、他年分については偏差がもっと小さくそれぞれ近似しているうえ、昭和五二年分の右数値についても平均値を求めるのが不合理であると考えられるほどの著しい偏差であるとは認め難い。

(三)  さらに、原告は、襖は外注品であって、利益率が他の製品とは全く異なるので、これを一括するのは合理性がない、と主張する。

なるほど、原告主張のとおり製品を細分化すればするほど売上換算率は正確なものに近づくので、その率は理想的なものとなるが、前記(一)の各証拠によると、サッシと木製建具等に区分する以上に細分化することは著しく困難であると認められ、また仮に原告主張のとおり襖がすべて外注品であって売上換算率に差異が生ずるとしても、類似同業者の中にも外注を用いている業者が存していることが認められるから、右のような差異も平均売上換算率に平均化されて含まれているということができ、右主張も採用し難い。

(四)  以上のとおりであって、被告主張の同業者率による平均売上換算率を原告に適用するについてはなんら支障がないものと認められる。

5  被告の主張2(二)(仕入金額)及び原告が棚卸をしていなかった事実は、いずれも当事者間に争いがないので、原告の各係争年分の仕入金額をもって、当該年分の売上原価とすることについてもさほど不合理な推計方法とはいえない。

ところで、被告は別表六のガラスの仕入金額のうち、八〇パーセントをサッシの売上原価の額に、残りの二〇パーセントを木製建具等のそれに振り分け、金具類の仕入金額はすべて木製建具等の売上原価に含めて計算しているところ、右のうち、ガラスの仕入金額を右のような割合で振り分けたのは、前掲乙第一号証によると、原告の申述と国税不服審判所の調査の結果に基づくものと認められるので、それが不合理であるとはいえない。

また、原告は、右の金具類につき、その中に含まれている金物類はサッシのほか、家庭用や新築用に使用した分もあるので、その仕入金額をすべて木製建具等の売上原価に含ませるのは理由がない、と主張する。しかしながら、金具類のうち、原告が仕入れた物の中から私的に流用した数量については、具体的な立証はなく、金具類の仕入金額は昭和五〇年分から昭和五二年分にかけてさほど変化していないので、新築等に流用したとしても微々たる額と推認され、推計上、特に考慮する必要があるとは認められない。さらに、サッシに使用する金具類はその卸売店以外の金物店から購入することは少ないのが経験則上明らかであって、別表六の〈12〉ないし〈15〉の金物の仕入金額はそのほとんどすべてが木製建具用のそれと推認されるので、当該金額をサッシと木製建具等の二つに区分する必要はないというべきである。したがって、被告主張の売上原価の額は合理的なものであるというべきである。

そこで、右のような売上原価に前記平均売上換算率(小数点二桁以下切捨)を適用すると、別表五のとおり原告の各係争年分の売上金額を算出することができる。

6  被告の主張2(四)(一般経費の額)、(五)(特別経費の額)及び(六)(雑収入金額)の各金額は、当事者間に争いがない。

7  そうすると、原告の事業所得金額は、売上金額から一般経費及び特別経費の額を控除し、これに雑収入金額を加算した額であるから、結局、次のとおりとなる。

昭和五〇年分 二六〇万二七八一円

昭和五一年分 二三四万三五九四円

昭和五二年分 五八八万六八八八円

そして、原告には事業所得以外の所得はないので、右各金額が原告の各係争年分の推計に基づく総所得金額ということになる。

四、以上認定したところによれば、原告の各係争年分の総所得金額は、本件更正処分に係る総所得金額は、本件更正処分に係る総所得金額を下回っていないことは明らかであるので、その総所得金額の認定に違法はなく、したがって本件賦課決定にも違法はないものというべきである。

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石嘉孝 裁判官 安藤宗之 裁判官大島隆明は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 白石嘉孝)

別表一 (昭和五〇年分課税経緯表)

〈省略〉

別表二 (昭和五一年分課税経緯表)

〈省略〉

〈省略〉

(注) 納付すべき税額は、特別減税額九、〇〇〇円控除後の金額である。

別表三 (昭和五二年分課税経緯表)

〈省略〉

〈省略〉

(注) 納付すべき税額は、特別減税額九、〇〇〇円控除後の金額である。

別表四 (売上換算率表)

〈省略〉

別表五 (売上金額表)

〈省略〉

別表六 (仕入金額表)

〈省略〉

〈省略〉

(注)一 (株)は株式会社の、また、(有)は有限会社の略称である。

二 仕入金額は、リベートの額を減算する前の額である。

三 〈9〉山手材木店株式会社からの各係争年分の仕入金額は、原告が自家造作材として使用した昭和五〇年分四九四、九一九円、昭和五一年分五三七、七一四円、昭和五二年分二〇〇、〇〇〇円をそれぞれ減算した額である。

別表七 (一般経費表)

〈省略〉

〈省略〉

別表八 (原告主張の売上原価表)

〈省略〉

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